澄水 藍のブログ

創作小説をアップします。

すぅいさいど りふぁれんす



「死に方、教えて」


妹が、部屋に入って来てそう言った

“漫画、貸して”

それと同じテンションで


妹が、死にたがってる


飛び降りとかは?

適当に答えた回答に肩を竦めた妹

それだと、確実に死ねない

確実に死にたい

ヘラっとしてるようで、目が本気だった


死に方なんて知らない。

代わりにパソコンを貸した。

カチカチとマウスを操作し

ネット検索を始めた

次々と不謹慎な、中学生が打つに相応しくない単語が打ち込まれていく。


数十分後

パソコンのシャットダウンの音が聞こえた

わかったの?」

「うん!色々書いてあったから、とりあえず一個ずつやってみるよ!」

無邪気に笑うその顔に

そう、としか返せない

頬骨に広がる青痣

新しい血の滲む口の端

眼帯を付けるほど深手を負った右目

長さがバラバラになった綺麗な黒髪


妹は、死にたがってる




私はあまり、妹に興味がない

死にたいなら死ねばいい

そんな事を

サラッと思ってしまうくらいに


両親だってそうだ

妹に興味がない

夜遅く帰って来ても

顔面が血まみれでも

足を引きずって帰って来ても

一度たりとも声をかけなかった

見て見ぬ振りをしている


妹がおかしくなったのは割と最近

泣かなくなったのがきっかけだった


中学に上がりたての頃

小学校からのいじめに拍車がかかって

怪我が目立った

それを毎日

夜中に自分で手当てしていた

ずっと

一晩中リビングから啜り泣く声が聞こえてた


その頃は、妹が嫌いだった

私の友達が、妹をいじめてたから

私は友達の味方をした

そうすれば、強くなれたから

強い人の側にいれば、

強い人に共感していれば、

自分の身は保障されたから

だから妹をいじめた


女子トイレで水をかけ

話しかけられれば無視をして

お小遣いを奪うなんてしょっ中

母さんの財布から金を奪わせたこともある

そのせいで妹は母さんの信頼をなくした


妹が好きだった男の子

妹のありもしない噂を教えたせいで

妹はこっ酷くフラれ

クラスメイト全員にネタにされた


死ね


高らかに笑いながら

冗談で

面白いもの見たさで

嫌悪感を出しながら


誰しもが妹にそう言った


ある日階段から落ちた

頭をぶつけた妹は

同時に何かが抜け落ちたように

泣かなくなった


よく笑うようになった

小さい頃を思い出させるように

無邪気に


今も、無邪気に話してる

自分の死に際について

どんな方法がいいかを


首吊り自殺は?

上手く死ねるかな

服毒自殺は?

苦しいのかな

飛び降り自殺は?

高いところ苦手だなぁ

飛び込み自殺は?

人に見られたくないんだ

リストカット自殺は?

いいかもしれない

練炭自殺は?

うーん


まるで

バレンタインのラッピングを選ぶように

嬉しそうに

楽しそうに

悩んでる


ケーキ、食べる?」


高校生になって、大人になった

自分のして来たことも、ちゃんとわかる

妹に興味はない

でも、嫌いじゃない


いちごの乗ったショートケーキ

自分用に買ったものだけど

妹も好きなケーキだから


誰かに頼むのは?

ううん、自分で死ぬからいいの、自裁だよ

「そっか」


もし、それでいいなら

私が名乗り出たかった

そして、気が変わるように

姉らしく

説得したかった


ケーキを口に含んで

嬉しそうに口元を歪めてる


死なないで

その言葉は

妹にどう届くだろう


こんなに楽しそうなのに

こんなに嬉しそうなのに

私の言葉で

辛い最後にしたくない


上手くいけばいいね」


私には

こんな言葉をかけるしかできない

壊しておいて

情けない


「ありがとうお姉ちゃん」


満面の笑み

遠足に行く日の、子供のよう



上手くいけば

また

来世で




その日の夜、妹は通り魔に刺されて死んだ




end.


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